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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)211号 判決 1998年5月12日

千葉県佐倉市新町五〇番地一

原告

小澤功子

東京都千代区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長 太田幸夫

右指定代理人

齋藤紀子

松原行宏

武澤忠臣

加藤昌司

斉藤和

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告が平成八年分所得税に係る還付金の充当処分について平成九年六月一八日付けの書面でした審査請求に対して裁決をせよ。(以下、この請求を「原告の請求1」という。)。

2  原告が平成八年分所得税に係る還付金の充当処分について平成九年六月一八日付けの書面でした審査請求に対して被告が裁決をしないことは違法であることを確認する。(以下、この請求を「原告の請求2」という。)

二  被告

(本案前)

本件訴えをいずれも却下する。

(本案)

原告の請求1を棄却する。

第二事案の概要

本件は、東京国税局長が原告に対してした平成八年分所得税に係る還付金の充当処分について、原告がこれを不服として被告に対し審査請求をしたのに対し、被告が審査請求がされた日から足かけ三か月を経過しても裁決をしないことから、原告が、被告において裁決しないのは違法であり、直ちに裁決をする義務があるとして、被告に対し、右審査請求に対して裁決をするよう求めるとともに、被告が右審査請求について裁決をしないことが違法であることの確認を求めているものである。

一  前提事実(本件記録上明らかな3の事実以外は、乙一、二及び弁論の全趣旨により認定した。)

1  東京国税局長は、平成九年六月一六日付けで、原告に対し、原告の平成八年分所得税に係る還付金を昭和六一年六月一一日の相続開始に係る原告の相続税の申告分の滞納国税に充当する旨の処分(以下「本件充当処分」という。)をした。

2  原告は、本件充当処分を不服として、東京国税局長に対し異議の申立てをしたところ、右異議申立てを棄却する旨の決定を受けたので、さらに、被告に対し平成九年六月一八日付けの審査請求書をもって審査請求(以下「本件審査請求」という。)をし、被告は同月一九日にこれを受理した。

3  原告は、平成九年八月二七日に原告の請求1に係る訴えを、同年一〇月二八日に原告の請求2に係る訴えをそれぞれ当裁判所に提起した。

4  被告は、本件審査請求に対し、平成九年一二月一日付けでこれを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、同裁決書の謄本は同月三日に原告に送達された。

二  本件の争点

本件の争点は、本件訴えが訴訟要件を欠き不適法であるかどうか及び本件審査請求に対し、被告が裁決をしていないことが違法で、直ちに裁決をする義務があるかどうかであり、この点に関する各当事者の主張は、次のとおりである。

1  本件訴えが訴訟要件を欠き不適法であるかどうか

(被告の主張)

(一) 原告の請求1に係る訴えは、いわゆる義務付け訴訟であるところ、被告において、審判の申立てがあった場合に審判をすべき義務があることは当然であるが、いつまでに裁決をしなければならないかについては、第一次的には、行政庁である被告の権限とその責任に基づく判断にゆだねられているものであり、右訴えは、被告の右第一次的判断権を侵害するものであって、三権分立の原則に反し、行政事件訴訟法上許されないものである。したがって、右訴えは不適法である。

(二) 前記一4記載のとおり、被告は本件審査請求について平成九年一二月一日付けで裁決をした。したがって、本件審査請求に係る不作為はもはや存在しないから、本件訴えは、いずれも訴えの利益を欠くものであり不適法である。

(原告の主張)

被告の主張を争う。

2  被告が本件審査請求に対し裁決をしていないことが違法で、直ちに裁決をする義務があるかどうか

(原告の主張)

本件審査請求は、東京国税局長の平成七年分所得税に係る還付金の充当処分について原告が被告に対してした審査請求と争点を同じくするものであり、被告は、法律判断をすればよいだけであるのに、本件審査請求がされてから足かけ三か月を経過しても裁決をしないのは違法であり、直ちに裁決をする義務があるというべきである。

(被告の主張)

被告が審査請求についていつまでに裁決をしなければならないかについては、第一次的には被告の権限とその責任に基づく判断にゆだねられているものと解すべきところ、被告は、原告の請求に係る本件訴えの提起当時、本件審査請求については調査、審理中であったものであり、その時点で裁決をしていないことに何ら違法はない。

第三争点及び原告の訴えの変更の申立てに対する判断

一  本件訴えが訴訟要件を欠き不適法であるかどうかについて

原告の請求1に係る本件訴えは、被告に対し本件審査請求に対し裁決をするよう求めるものであり、また、原告の請求2に係る本件訴えは、本件審査請求に対し被告が裁決をしないことが違法であることの確認を求めるものであって、いずれも、本件審査請求に対し被告が原告主張の期間を経過しても裁決しないことが違法であるかどうかが審判の対象となるものである。しかるに、被告が平成九年一二月一日付けで本件審査請求に対しこれを棄却する旨の本件裁決をしたことは、前記第二の一4記載のとおりであり、そうすると、本件訴えの前提となっている本件審査請求に対し裁決がないという状態は解消され、本件訴えは、事後的に訴えの利益を欠くことになったものというべきである。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えはいずれも不適法というべきである。

二  原告の訴えの変更の申立てについて

原告は、平成九年一二月六日付けの訴え変更申立書をもって、原告の請求1、2に係る本件訴えにつき、平成八年法律第一〇九号による改正前の民事訴訟法(以下「旧民事訴訟法」という。)二三二条に基づいて、本件裁決の取消しを求める請求に訴えを変更する旨申し立て、これに対し、被告は右訴えの変更は許されない旨述べた。

そこで、判断するに、原告の請求1、2に係る本件訴えにおいては、本件審査請求に対し被告が裁決をしないことが違法であるかどうかが審判の対象となるものであるのに対し、本件裁決の取消しを求める訴えにおいては、本件審査請求を棄却した本件裁決に固有の瑕疵(違法)があるかどうかが審判の対象となるものであって、両者の請求の基礎には同一性があるものとはいえない。したがって、右訴えの変更は、旧民事訴訟法二三二条に定める「請求ノ基礎ニ変更ナキ限リ」との要件及び民事訴訟法一四三条に定める「請求の基礎に変更がない限り」との要件を欠き許されないものというべきである。

第四  以上の次第で、本件訴えはいずれも不適法であるから、これを却下することとし、なお、原告の訴えの変更の申立てはこれを許さないこととし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 裁判官 篠田賢治)

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